中国では有名じゃない!?【知られざる葛根湯の歴史】

葛根湯

こんにちは!今回は、おなじみの漢方薬【葛根湯】についてのお話です。

「カゼに葛根湯、痛みに痛散湯」「漢方薬と言えば葛根湯」

おそらく、日本で一番有名な漢方薬ではないでしょうか。(葛根湯以外知らないという人の方が多いかも知れませんが…。)

そんなメジャーな葛根湯、意外にも本場中国ではそこまで知名度は高くありません。中国の薬局にはあまり置いてませんし、カゼをひいた時は他の漢方を飲むのが普通です。

ではなぜ葛根湯は日本でこんなにも飲まれるようになったのでしょうか?実はそれには、日中の伝統医学の歴史の違いが関係しています。

1.1800年前も昔に作られた葛根湯

葛根湯の歴史は古く、なんと紀元200年頃に書かれた『傷寒論』という医書の中ですでに紹介されています。1800年もの間、葛根湯は風邪の初期症状や肩こりなどを和らげる効果がある薬として、現代まで伝わってきた漢方薬です。

当時は気候や栄養状態も悪かった時代で、冷えから来る病気が主流でした。そのため、体を温めて治療する処方が多く考案されました。葛根湯は、ゾクゾクと悪寒(おかん)の強いカゼに非常に強い力を発揮する薬だったのです。

三遊亭円朝作『真景累ヶ淵』落語というより怪談である。

明治時代に活躍し、落語中興の祖として親しまれた三遊亭園朝。彼の演目に『真景累ヶ淵』(しんけいかさねがふち)というものがありますが、その中には登場人物のお園が「傷寒の病」にかかるという表現が出てきます。

このように、ゾクゾクと悪寒がしてふしぶしが痛くなるようなカゼを昔は「傷寒」と呼ばれていました。

明治期までは、日本でもカゼのことを傷寒と表現していたのです。

2.生活が豊かになるにつれてカゼの種類も変化した

ところが、葛根湯が作られた中国はどうだったか?時代がくだって明・清の時代(14世紀~19世紀、日本の室町~明治時代)、 都市への人口の流入や温暖化が進み、ウイルスなどによってもたらされる熱性の病気が急増します。

それまでの「傷寒」より強力なカゼが出現するんです。今でいうインフルエンザや新型コロナウイルス大流行のような状態です。このように急激に発熱したり、すぐ肺炎にまで進むような病態には、それまでの「体を温めて治す」葛根湯では太刀打ちできません。傷寒ではない、新たな病気の概念が必要になりました。そこで生み出されたのが「温病(うんびょう)」という病態です。そして、その温病を治すための医学「温病学(うんびょうがく)」という新しい医学体系が生み出されるのです。

中国のカゼ薬は新たな方向へ発展、日本は?

これまで傷寒という病気には有効だった葛根湯ですが、新たに出現した温病には対処できません。そこで新しく薬を開発する必要がありました。

「銀翹散」と「板藍根」日本では葛根湯ほどメジャーではない。

この時に作られた薬が「銀翹散(ぎんぎょうさん)」「板藍根(ばんらんこん)」 です。 銀翹散には、抗ウイルス力の強い金銀花(きんぎんか)や連翹(れんぎょう)などの生薬が配合されています。 板藍根は、現在の中国でもカゼをひいた時やカゼの予防にとてもよく使われる薬です。

現代の中国で葛根湯があまりメジャーでないのは、これら強力な薬が広く使われているからなんです。

では日本ではこれらのが葛根湯ほどメジャーではないのはなぜでしょうか?

実は中国で温病学が生まれた時代、日本は鎖国をしていたのです。だから温病の概念も、温病に対応した薬も日本にはあまり入って来ず、根付かなかったのです。

高熱でうなるようなカゼには葛根湯も効果ナシ!?

カゼ薬としては非常に効果的な葛根湯ですが、悪寒も発汗も無く、高熱でウンウンうなっているようなカゼにはあまり効果を発揮することができません。このような温病に対処できないことは、葛根湯の弱点と言えるかも知れません。

3.それでも優秀な葛根湯

落語に「葛根湯医者」という有名な枕話があります。

ある町医者のところに様々な不調を抱えた患者がやってきた。

医者 :「おまえどうしたんだ? どっか悪いのか?」

患者1:「先生ね、あっしはあたま痛くてしょうがないんですよ」

医者 :「それは頭痛だ。葛根湯あげるから、それおあがり」

患者2:「あっしは、はらが痛いですよ」

医者 :「それは腹痛だ。葛根湯あげるから、おあがり」

患者3:「あっしは、あしが痛いんですよ。」

医者 :「それは足痛だ。葛根湯あげるから、おあがり」

患者4:「あっしは、兄貴が足が痛いって言うんで、一緒についてきたんですよ。」

医者 :「あー付き添いか。退屈だろう。葛根湯おあがり」

葛根湯しか出せない、何というやぶ医者だ、というオチですが、漢方的に見るとやぶ医者とはあながち言えないかも知れないのです。

実は名医!?葛根湯医者

実は葛根湯は、肩から上の血流改善や関節の痛みを緩和する作用があるのです。だから頭痛、肩こり、鼻炎など肩より上の症状に何でも効いてしまう。また、カゼで足の関節に痛みが出ているなら、そちらにも効果があるかも知れません。

やぶ医者と笑われる「葛根湯医者」ですが、実は葛根湯の万能性を理解した名医なのかも知れませんね(暇つぶしに効くかは定かではありませんが笑)

まとめ

1.葛根湯は1800年もの歴史がある伝統的カゼ薬 

2.インフルエンザなどの流行性感冒はやや苦手 

3.それでも葛根湯はやっぱり万能薬

今回は日本で一番有名な漢方薬であろう葛根湯についてのお話でした。

次回は葛根湯の作用や構成生薬、正しい飲み方などについて解説したいと思います。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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