カゼを治す薬は無い!?【意外と知らないカゼの話】

こんにちは!今回はカゼにまつわるお話を一つ。

カゼと言っても実はその原因や症状は様々。もっと言うと「カゼ」という病気は存在しないのをご存じでしたか?最も身近な病気でありながら、その内実は最も知られていない「カゼ」について説明します。

「カゼ」という病気は存在しない?【カゼ・風邪・感冒】

医学的にカゼとは単一の疾患ではなく、「かぜ症候群」という各種症状の総称なんです。かぜ症候群には、急性上気道炎(普通感冒)から急性喉頭炎、咽頭結膜熱、インフルエンザ(流行性感冒)、マイコプラズマ肺炎等さまざまな症状が含まれます。従って、「コロナはただのカゼ!」と叫んでいる人もいましたが、「新型コロナウイルスによる肺炎」がカゼというのは、カゼの定義から言えば間違いではありません。

但し、一般的には「カゼ」と言えば頭痛・発熱・咳・くしゃみ等を伴う急性上気道炎(普通感冒)のことを指すので、その意味では、症状が気管支や肺にまで達し、重症化率の高い新型コロナ感染症をカゼというのはあまりふさわしくないと言えます。また同様にインフルエンザも風邪と呼ぶべきではない、という専門家も多いそうです。

上気道(鼻・のど)の炎症が「普通感冒」

感染力が強く重症化もしやすい新型コロナやインフルエンザをカゼと呼ぶことで危機感が薄れるということでしょうね。

ところで、本ブログでは「風邪」ではなく「カゼ」と書いていますが、別に漢字を書きたくないわけではありません。これには理由があるんです。

風邪はもともと「ふうじゃ」と読み、ウイルスや細菌といった病原体が発見されていなかった数千年も前の時代に作られた東洋医学的な概念なんです。病原体が分からないので、冷気や熱気、湿気など自然界に存在する悪いものが、風とともに体内に侵入して病気を引き起こす、これを風邪(ふうじゃ)と呼んだのですね。だからウイルスによって上気道に炎症を起こす西洋医学的な”カゼ”とは本来別ものなのですが、幕末から明治にかけて西洋医学が日本に輸入された際に、”Common cold”の訳として、病態が近い「風邪」の字が当てられたのです。

なので本稿では、普通感冒のことを指す風邪(かぜ)を、東洋医学の風邪(ふうじゃ)と区別するために「カゼ」と記載します。

ちなみに「感冒」の方は比較的新しい言葉です。ポルトガル語の⾵邪を意味するCanbo(カンバウ) に由来し、ポルトガル語が伝わった1500年代の安⼟桃⼭時代から使われているといわれています。「寒冒」と書くこともあったそうです。当時は欧州から珍しいものが多く入ってきた時代ですから、言葉もポルトガル語から拝借されたようですね。(タバコ、ボタン、カルタ、テンプラなどは全てポルトガル語由来です)

”カゼを治す薬”は存在しない?

意外に思われるかもしれませんが、”カゼを治す薬”というものは存在しません。

え?じゃあドラッグストアに売ってる エス〇ックとかとかパブ〇ンって何なの??

そんな声が聴こえてきそうですが事実なんです。

一般に市販されているカゼ薬と呼ばれているものは、実はカゼの症状を緩和するだけの薬なんですね。

パッケージにもちゃんと書いてあります。「かぜの諸症状(せき、たん、のどの痛み、くしゃみ、鼻みず、鼻づまり、悪寒、発熱、頭痛、関節の痛み、筋肉の痛み)の緩和」って。

それではなぜカゼ薬というのは、カゼそのものを治す薬ではないのでしょうか。

普通感冒の原因の80~90%はウイルスの感染と言われています。その中にはもちろんコロナウイルスも入っています。主なウイルスは、ライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルスなどがありますが、同じコロナウイルスでも様々な型があり、私たちが日常感染する可能性があるウイルスは数百種類にものぼります。

なので、今ひいているカゼの原因ウイルスを特定するのは非常に困難なのです。

現代医学は、原因となっているウイルスを特定できてはじめて対策が取れます。逆に言うとウイルスを特定できないと対処できません。それに、そもそも特定できたとしても、ウイルスを殺す薬は無いので、対処のしようがありません(ウイルスと細菌は別物なので、最近を殺す抗生剤や抗生物質、殺菌剤などでウイルスは殺せませんし、殺ウイルス剤も少ししか開発されていません)。

カゼの原因となる主なウイルス

主なカゼウイルス 特徴

ライノウイルス

カゼの原因の30~40%を占めるウイルス。春や秋に多く、主に鼻カゼを引き起こす。
コロナウイルス ライノウイルスの次に多く、主に冬に流行する。鼻や喉の症状を引き起こす。
RSウイルス 年間を通じて流行するが、特に冬が多い。乳幼児に感染すると気管支炎や肺炎を引き起こす場合がある。
パラインフルエンザウイルス 鼻や喉のカゼを引き起こすウイルス。子供に感染すると大人より重症化しやすい。秋に流行する型と春~夏に流行する型がある。
アデノウイルス 冬から夏にかけて多い。プール熱の原因となるウイルス。咽頭炎や気管支炎、結膜炎などを引き起こす。
エンテロウイルス 夏に流行するウイルス。呼吸器系の症状のほか、下痢を起こしたりする。

 

漢方薬はカゼをどう治すか

19世紀にウイルスが発見されて以降、現代医学はウイルスを殺す方向に発展してきました。原因ウイルスが特定できれば、非常に強い力を発揮する、それが現代医学の特徴です。

一方で漢方のような伝統医学は、ウイルスという原因物質が発生する前に生まれた医学ですから、病気に対する考え方が根本的に異なります。

体の陰陽バランスの偏り、気血水の乱れや、肝・心・脾・肺・腎の五臓などの働きが低下することで、様々な症状が現れることが病気だと考えたのです。

従って漢方の治療プロセスは、まず体に現れた様々な症状を観察し、その症状をグループ分けします。そのグループ分けとなる基準は、陰陽・寒熱・気血水・五臓といったものであり、現代医学では使われないものです。

漢方のものさし

一見非科学的に思えるかも知れませんが、これは数千年にわたって病人を観察・治療してきた中医学の経験の蓄積であり、一定の効果があるために医学として存続してきたのです。

そもそも治し方に対する概念が違うので、原因ウイルスが特定できないと対処のしようがない現代医学に対し、漢方薬がカゼの”根本治療”が可能なのはこのためです。

漢方薬は、”治す力を高める”

西洋薬は熱を下げるが、漢方薬は熱を上げる!?

私たちはカゼをひくと、多くの場合熱が出ます。38℃、39℃、場合によっては40℃以上にも。これは免疫反応の一つで、私たちの免疫システムが体に侵入したウイルスを駆逐しようとしているのです。

ウイルスは殺菌剤では死にませんが、40℃以上の高温になると働きが弱まります。ウイルスの働きが弱まったところで、私たちの免疫細胞がウイルスを攻撃するのです。

つまり、カゼのひき始めに解熱剤で熱を強制的に下げてしまうことは、一時的に免疫機能を下げてしまうことを意味しているのです。

西洋薬はカゼの回復を遅くする!?

一方で、漢方薬の作用メカニズムは正反対です。代表的な風邪薬である葛根湯には、麻黄とい生薬が含まれていますが、この麻黄にはとても強い体温上昇作用があるエフェドリンという成分が含まれているのです。

ちなみに、葛根湯はドーピングの禁止薬物である、という話はスポーツをやっている人なら一度は聞いたことがあると思いますが、その理由がまさにこのエフェドリンなのです。

覚せい剤として用いられる薬物にメタンフェタミンというものがありますが、エフェドリンはこのメタンフェタミンと構造が似ているため、非常に強い興奮・発汗などの作用があります。その結果、体温が上昇するのです。

私たちの常識では、発熱の時に熱を上げるなんて…、と思うかも知れませんが、これが漢方の考え方。体温が上がるのは、身体が風邪(ふうじゃ)を追い出そうとしている証拠。それならばその働きに従って体温を上げる薬を飲まそう、ということなのです。

ただし、だからと言って西洋薬を飲む必要は全く無いのかと言えば、そうだとは思いません。

確かに漢方薬は身体の発熱を促し、治りを早めます。しかしそれには頭痛や関節の痛みといった苦痛を伴います。

西洋薬はそんな苦痛を緩和してくれるお薬なんです。

多忙な生活を送る現代、カゼだろうが何だろうが出ていかなくてはいけない時が、誰しもあると思います。そんな時には、迷わず西洋薬としての風邪薬を飲んでください。

漢方薬も決して万能ではありません。時と場合によって使い分けるのが重要なのです。

まとめ

今回は、意外と知られていないカゼのお話を紹介しました。とても基本的なことですが、漢方薬を理解するには、知っておいて損はない知識です。

次回はカゼに効く漢方薬をご紹介したいと思います。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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