【漢方薬の名前に込められた意味とは?】知ればオモシロ漢方の名前の秘密

葛根湯加川芎辛夷

こんにちは!今回は漢方薬の名前についてのお話です。

ドラッグストアの漢方薬の棚に行くと、葛根湯や麻黄湯、防風通聖散(実は小林製薬の「ナイシトール」はこれです)など、聞きなれた名前の漢方薬があります。一方で、ドラッグストアには売られていないため、あまり聞いたことが無い漢方薬や、 「葛根湯加川芎辛夷」のようにやたら長い名前の漢方薬があったりします。

薬剤師さんや登録販売者さんの試験には漢方の問題も出題されますが、「漢方薬の名前が覚えられない!」というお悩みをよく聞きます。

でも大丈夫!漢方薬の名前の付け方には、実はいくつかの法則があるんです。その法則を知ってしまえば、漢方薬の問題なんか楽々解けちゃいますよ!

今回は、そんな漢方薬の「名前の法則」について解説します!。

漢方薬の名前についている、~湯、~散、~丸についてはこちらの記事(参考:【○○湯?○○丸?○○散?】知ればオモシロ漢方薬の名前の話)もご覧ください!

1.配合されている生薬の名前に由来するもの


おそらく一番多いのがこのパターン。配合されている生薬の名前を冠したものです。配合されている生薬の中で、主要なものの名前を付ける場合が多いですが、配合生薬全てを入れる場合もあります。

葛根湯(かっこんとう)は日本で一番有名な漢方薬ですね。配合生薬は、葛根・麻黄・桂皮・生姜・大棗(ナツメ)・芍薬・甘草の7つ。葛根だけでできているから葛根湯だと誤解されている方もいるようですが、そうではありません。麻黄湯や芍薬甘草湯のように、葛根湯にも配合されている生薬名を冠した漢方薬はありますが、葛根湯と名付けられたのは、この薬の特徴をよく表していると言えます。

葛根湯と言えばカゼの薬。漢方薬のカゼ薬は基本的に体を温める性質があるのですが、葛根湯は体を温めることに加えて、「カゼによる筋肉や関節の痛みを和らげる」作用があります。その作用を発揮するのが、葛根というわけです。

葛根湯については、こちらの記事(カゼに効く漢方薬【葛根湯】)もご覧ください。

麻黄湯(まおうとう)も葛根湯と同様、カゼに効く薬です。葛根湯との違いは、より急性で強い発熱を伴うインフルエンザのような症状に効くということです。配合生薬の麻黄に含まれるエフェドリンという物質は、覚せい剤と構造が似ており、非常に強い興奮・発汗作用があります。これがウイルスに対する体の抵抗力を高めてくれるのです。

こむら返りに効く「芍薬甘草湯」

芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)は、芍薬と甘草という2つの生薬からできています。これは足のつり、いわゆるこむら返りに効く薬ですが、とても即効性があり、マラソンランナーなどのスポーツ選手にもよく使われている薬です。芍薬と甘草は葛根湯にも配合されていますね。これもカゼの時の痛みを軽減させるためです。

柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)はカゼの後期や吐き気を伴うカゼなどに効く漢方薬です。柴胡は体表の熱を冷ます作用があります。桂枝はシナモンで、体を中から温めてくれます。体の内と外で違った働きをする。漢方薬にはそんな不思議な作用を持つものが少なくありませんが、柴胡桂枝湯もそんな特徴を持っています。長引くカゼのように、微熱があって胃腸も弱ってる、そんな体をいたわってくれる良い薬です。柴胡桂枝湯についての詳しい記事はこちら→(長引くカゼに効く漢方薬【柴胡桂枝湯】

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)はともに生理痛などの婦人科系の不調に効く薬として有名ですが、これらの名前も配合されている生薬が由来です。

まるで「あいうえお作文?」

配合生薬の名前を全部入れたくて、それぞれの頭文字を省略しちゃったものもあります。

麻杏甘石湯
喘息に効く「麻杏甘石湯」

麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)は、麻黄・杏仁・甘草・石膏でできています。4つの生薬の頭文字をとって麻杏甘石湯。まるであいうえお作文ですね笑 ちなみに石膏は石膏ボードの石膏です。嘘みたいですが漢方薬には石膏が使われているものが結構あります。

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)も同じです。茯苓・桂皮・白朮・甘草の4つからできています。白朮は昔「朮」と言われていたからいいのですが、茯苓だけなぜ苓となっているのか分かりません。

苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)は、茯苓・甘草・生姜・五味子・細辛・半夏・杏仁からできています。リョウカンキョウミシンゲニントウ・・・覚えにくいですね。長いし。しかもなぜ頭文字ではないのか?いや、甘草は頭文字か。一貫性が無い。。。

このように、生薬名を全部入れたくて(この薬作った人欲張り?)、生薬の頭文字(またはお尻文字)を全部繋げただけという漢方薬もあります。

2.薬の効果を表したもの

これも多いです。漢方薬は、漢方理論に基づいて体の「どこ」(何を)、「どうする」といった効果があります。その効果を名前としたものです。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は疲れを取ることで有名な漢方薬です。”中”はお腹のこと。漢方医学では、胃腸のことを中焦(ちゅうじょう)と言います。そして”益”は増やすこと(益々を”ますます”と読みますよね)。つまり、お腹の気を補って増やす効果がある、という意味なんです。

これ全部「補中益気湯」

安中散(あんちゅうさん)も胃腸系の薬です。冷えたお腹(中焦)を安らげる、だから安中散。

清肺湯(せいはいとう)は肺を清めて咳をしずめる薬。清肺湯ダスモック。潤腸湯(じゅんちょうとう)は腸を潤す薬、便秘に効きます。

滋陰降火湯(じいんこうかとう)という薬もあります。空咳などに効く薬です。”陰”は気血水の水のこと。”火”は炎症のこと。空咳はノドが乾いて炎症を起こしているので、陰を滋養して火を下げる、だから滋陰降火湯。

生薬名と効果を組み合わせたもの

生薬名と効果を組み合わせた名前のものもあります。

竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)は尿道炎や膀胱炎に使われます。竜胆という生薬が入っていて、下半身の炎症の原因である肝臓の熱を取り除く(瀉す)効果があるので竜胆瀉肝湯。ちなみに竜胆というのはリンドウという植物の根っこです。

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は、ダイエット薬として「ナイシトール」など色々な名前で販売されていますが、もともとは便秘薬です。防風という生薬が入っていて、聖なるもの(ウ○チのこと)を通じさせるので、防風通聖散。

各社から発売されている「防風通聖散」中身は同じでも名前は様々。

3.配合されている生薬の数を表したもの

数字の付く漢方薬

漢方薬の名前には数字が含まれているものが多くあります。これらは皆、配合されている生薬の数を表しているんです。

四物湯(しもつとう)は、地黄・芍薬・川芎・当帰の4つの生薬でできています。貧血や不眠、疲労といった血の不足(漢方では血虚と言います)に効く薬です。

四逆散(しぎゃくさん)は冷え性に効く薬として有名。気は普通、体の中心から外側に向かって流れますが、気の流れが滞って四肢が冷えることを「四逆」というそうです。四逆に効くから四逆散。あっ、これは四つの生薬という意味ではなかったですね汗。でも入っている生薬は、柴胡・芍薬・枳実・甘草の4つです。これはどうやら偶然のようです笑

四君子湯(しくんしとう)も漢方薬の中ではとてもメジャーです。効能は一言で表すと元気を出させてくれる、です。人参・白朮・茯苓・甘草を4人の君子に例えています。それに大棗と生姜も入っています。え?4つじゃないじゃん、そうなんです。まあ大棗と生姜は隠し味ってことで。。。

六君子湯(りっくんしとう)は四君子湯に陳皮と半夏をプラスしたものです。なので生薬数は8つです。四君子湯の 人参・白朮・茯苓・甘草と陳皮・半夏が6人の君子たちです。

二日酔いに効くアルピタン。実は「五苓散」

五苓散(ごれいさん)は二日酔いの頭痛に効く薬として売られており、ウコンに次いで飲み会の必須アイテムとなっているようです。茯苓・猪苓・沢瀉・白朮・桂皮の5つの生薬でできています。主要生薬である茯苓と猪苓の苓を取って五苓散です。

六味地黄丸(ろくみじおうがん)も有名な薬です。老化による虚弱体質などに使われます。地黄・山茱萸・山薬・牡丹皮・茯苓・沢瀉の6つの生薬が配合されています。6つ入って主要生薬が地黄だから六味地黄丸。これに体を温める作用がある附子・桂皮を足したものが、八味地黄丸(はちみじおうがん)です。

十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)、十味敗毒湯(じゅうみばいどくとう)は10の生薬からできています。 十全大補湯は体の元気を補い、 十味敗毒湯は体の毒素を排出するという効果が、名前として付けられています。

4.とにかくカッコいい名前

四神獣
漢方薬には「四神獣」にちなんだものがある。

配合されている生薬の名前とも、その数とも関係ない名前が付けられた漢方薬がいくつかあります。

女神散(にょしんさん)、個人的に一番気に入ってる名前です笑 名前から想像できる通り、月経不順など女性の不調に効く薬です。

神秘湯(しんぴとう)はとても神秘的な薬です。喘息など呼吸困難に使う薬なのですが、霊妙な薬効があるからこの名前なんだそうです。

四神獣とうものをご存じでしょうか?青龍・白虎・朱雀・玄武の四神獣がそれぞれ東西南北を守っているという中国の神話を起源とする霊獣です。青龍偃月刀、白虎隊、朱雀門、玄武洞など、四神獣にちなむものは数多くありますが、漢方薬にも四神獣の名を冠したものがあります。

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)は鼻炎や花粉症に効く薬として有名です。眠くならないので、花粉症の時期になると大変重宝します。麻黄が入っており、きれいな青色をしています。まさに青龍です。

「五虎湯」は5つ生薬が入った白虎湯

五虎湯(ごことう)はつらい咳によく効きます。杏仁や石膏、桑白皮など白い生薬が五つ入っているので、「5匹の白虎」ということで五虎湯です。

真武湯(しんぶとう)はめまいなどに使われる薬ですが、もともとは「玄武湯」という名前でした。中国の宋代に、皇帝の諱(いみな)を避けるために真武湯に改名されたのだとか。玄武の色である黒色をしているのが特徴です。

四神獣の最後は朱雀です。現在朱雀湯という薬は無いのですが、十棗湯(じっそうとう)というのが、朱雀湯だったのだろうと言われています。こちらは朱雀の色である赤色となっています。

5.処方名を組み合わせたもの

一番長い名前の漢方薬、「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」

最後は処方名を組み合わせたものです。すでにある○○湯にいくつか生薬を加えたもの、○○湯と○○湯を合わせたものなどがあります。

葛根湯加川芎辛夷
「葛根湯加川芎辛夷」

葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)は葛根湯に川芎と辛夷という生薬を加えたものです。このように、ある処方にさらに生薬をプラスしたものは、「○○湯加××」みたいな名前を付けます。その薬の薬効を増強したり、新しい薬効を加えたりする用法です。この場合は、葛根湯に鼻の通りをよくする川芎と辛夷が加わって、鼻炎にも効くようになっています。

抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)もこのタイプです。イライラをしずめる抑肝散に、お腹に良い陳皮と半夏を加えています。生理前のイライラに効くとして有名ですが、禁煙時のイライラにも効果があるそうです。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、漢方薬の名前が覚えられない人は見るのも嫌になってしまいそうな長い名前です。日本で売られている漢方薬で一番長い名前です。当帰・呉茱萸・生姜などが入っています。「四逆」は四逆散のところで説明したように、四肢が冷える、つまり末端冷え性のことです。

○○加は生薬をプラスしたものですが、反対にある生薬を引いたものもあります。

大柴胡湯去大黄(だいさいことうきょだいおう)は「大柴胡湯」から大黄という生薬を取り去ったものですだから「去大黄」。大黄はお腹の弱い人だと下痢になるので、取ってお腹に優しくなったものです。

2つの漢方処方を合わせたものもあります。「○○湯合××湯」と言います。

茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)は茯苓飲と半夏厚朴湯を合わせたもの。茯苓飲は気血水でいうところの「水」の巡りを良くするもの、半夏厚朴湯は「気」の巡りを良くするもの。この2つの効果を合わせもったのが茯苓飲合半夏厚朴湯です。

その他にも、猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)などがあります。

まとめ

いかがでしたか?実は漢方薬には色々な名前の付け方があったんですね!

これを機に、ドラッグストアで漢方薬を見つけたら、これはどんなパターンの名前かな?なんて考えてみるもの面白いと思います。

漢方薬の名前パターン】

1.配合されている生薬の名前に由来するもの

  葛根湯・麻黄湯・柴胡桂枝湯・麻杏甘石湯など

2. 薬の効果を表したもの

  補中益気湯・安中散・清肺湯・滋陰降火湯など

3.配合されている生薬の数を表したもの

  三黄瀉心湯・四君子湯・五苓散・六味地黄丸・十全大補湯など

4. とにかくカッコいい名前

  女神散・神秘湯・小青龍湯など

5.処方名を組み合わせたもの

  葛根湯加川芎辛夷・抑肝散加陳皮半夏・当帰四逆加呉茱萸生姜湯など

最後までお読み頂きありがとうございました。

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